賞与とは,一般的にボーナスと呼ばれるものです。会社の業績等に応じて恩恵的に支払われるもので,原則としては賃金ではありません。しかし,労働契約や就業規則などで支払金額,金額の算定方法,支払時金などが明確に決められている場合には,賞与であっても,賃金として扱われると考えられています。
退職金も,もっぱら恩恵的・報償的に支払われるものである場合には賃金とは言えませんが,労働契約や就業規則などで支払金額,金額の算定方法,支払時金などが明確に決められている場合には,賞与と同様,賃金の後払い的な性格を強く持っているものとして,賃金として扱われることがあります。
ただし,賞与や退職金は,賃金や割増賃金とは異なり,労働基準法上,当然に発生するものではありません。労働契約や就業規則などで,賞与や退職金を給付する旨が定められている場合にのみ発生します。賃金と同様に扱われる場合があるとは言っても,賃金のように当然に発生するものであるというわけではないのです。
したがって,賞与や退職金の不払いという問題は,労働契約や就業規則などで賞与や退職金に関する規定が定まられている場合にはじめて生じる問題です。労働契約や就業規則などで賞与や退職金を支給する旨の定めが無い場合には,賞与・退職金が支払われないとしても問題となることが無いということです。
賞与や退職金について支給規程があるにもかかわらず,これらが支給されなかった場合,まず最初に問題となるのは,その賞与や退職金が「賃金」に当たるのかということが問題となります。もし賃金に当たるとすると,賃金の支払いに関する厳しい規制が適用され,請求が認められやすくなるからです。
賞与や退職金が賃金に当たらない場合であっても,労働契約や就業規則にそれらを支給する旨の定めがある以上,使用者の勝手で不支給とすることは,労働条件の不利益変更となります。つまり,使用者の勝手で賞与や退職金等を不支給とすることは許されないということです。
賞与や退職金が不払いとなった場合,まず最初に考えなければいけないことは,証拠の収集・確保です。賞与や退職金の不払いの場合には,それらの賞与や退職金を支給する旨が定められている就業規則,賞与規程,退職金規程などの証拠が必要となってきます。これらがなければ,証人が必要となる場合もあるでしょう。
なお,裁判等においては,請求する労働者の側で「支払いがなされていないこと」を立証する必要はありません。労働者側は賞与や退職金の金額がいくらかということを立証すればよく,未払いであることまでは立証する必要が無いのです。むしろ,使用者の方で「支払いをしたこと」を立証しなければならないからです。
また,使用者がかたくなに支払いを拒んでおり,仮に裁判等で勝ったとしても支払いが期待できないというような場合もあり得るでしょう。こういう場合には,あらかじめ将来に備えて使用者側の財産を押えておく必要があります。そのための手続として,裁判所による民事保全手続というものがあります。
実際に不払い賞与や退職金などを請求する方法として,裁判外によるものとしては,任意の交渉による方法(いわゆる示談交渉),労働基準監督署を利用する方法,労政事務所を利用する方法,紛争調整委員会を利用する方法,労働委員会を利用する方法,労働組合を利用する方法,そして,裁判を利用する方法が考えられます。
労働基準監督署では,労働基準法違反を申告して賞与や退職金などの不払いの是正を勧告してもらう方法があります。紛争調整委員会,各地方自治体の労政事務所,都道府県の労働委員会などでも,労使間の交渉のあっせんを行っているところもあります。また,労働組合に協力を求め,組合を通じて交渉を行うという方法もあります。
もっとも,上記の交渉やあっせん等は,労働基準監督署の勧告等を除き,あくまで話し合いですから,柔軟な対応が可能であるというメリットがある反面,強制力がないという欠点があります。そこで,最終的には(あるいは,最初から)強制力のある紛争解決方法,すなわち裁判手続の利用を考える必要があります。
不払い賞与・退職金問題を解決するための裁判所を利用する手続としては,労使双方の話し合いを基調とする労働調停,話し合いを基調としつつも裁判官による終局的な決定がなされる労働審判,そして,話し合いではなく,労使双方の主張・立証をもとに裁判所が判決という終局判断をくだす労働訴訟とがあります。










