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管理監督者に関する神代学園ミューズ音楽院事件判決

残業代を支払わなくてよい管理監督者であるかどうかを判断した裁判例として,神代学園ミューズ音楽院事件判決(東京高等裁判所平成17年3月30日判決)があります。ここでは,この神代学園ミューズ音楽院事件判決(東京高等裁判所平成17年3月30日判決)の管理監督者性に関する判断基準について,東京 多摩 立川の弁護士がご説明いたします。

神代学園ミューズ音楽院事件判決

残業代休日手当を支払わなくてよい管理監督者に当たるかどうか(「名ばかり管理職」の問題)の判断を示した裁判例の1つに,神代学園ミューズ音楽院事件判決(東京高等裁判所平成17年3月30日判決)があります。

著名な日本マクドナルド事件判決以前に,すでに管理監督者性について判断をしていた裁判例です。

マクドナルド事件判決が地裁判決であるのに対し,この神代学園ミューズ音楽院事件は高裁判決ですから,規範としての通用性は,むしろマクドナルド事件よりも高いといえるかもしれません。

この事件は,ミューズ音楽院の個人経営者と同人が理事を務める学校法人神代学園に対し,ミューズ音楽院(及び学校法人神代学園)の労働者8人が残業代等の支払いを請求したという事案です。

神代学園には,上記音楽院のうちヴォーカル科が移設され,上記労働者たちはそれに伴って神代学園の方で勤務するようになり,賃金もそちらで支払われるようになったため,相手方がミューズ音楽院代表者と神代学園の2者となっています。

この事件では,管理監督者性の他に,残業禁止命令後に残業をした場合にも残業代支払い義務があるか,固定残業代(定額残業代・みなし残業)制なども争点となっていますが,ここでは,このうちの管理監督者性の判断基準についてご説明いたします。

>> 残業代等が支払われない管理監督者とは?

神代学園ミューズ音楽院事件判決が示した判断基準

神代学園ミューズ音楽院事件判決では,管理監督者性について,以下のとおり判示しています(一部抜粋。なお,労働者原告はA~Gとして表記され,音楽院代表者はMと表記されています。)。

 法1条の原則にかんがみれば,法41条2号の規定に該当する者(管理監督者)が時間外手当支給の対象外とされるのは,その者が,経営者と一体的な立場において,労働時間,休憩及び休日等に関する規制の枠を超えて活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与され,また,そのゆえに賃金等の待遇及びその勤務態様において,他の一般労働者に比べて優遇措置が講じられている限り,厳格な労働時間等の規制をしなくてもその保護に欠けるところがないという趣旨に出たものと解される。

 したがって,原告Gら3名が管理監督者に該当するといえるためには,その役職の名称だけでなく,同原告らが,実質的に以上のような法の趣旨が充足されるような立場にあると認められるものでなければならない。

 前記認定事実によれば,原告Gら3名は,いずれもタイムカードにより出退勤が管理され,出勤時間は他の従業員と同様の午前8時30分に余裕を持った出勤をしていたほか,平成13年3月分までは時間外労働等の実績に応じた割増賃金の支払を受けていたのであり,これらの事実に照らせば,原告Gら3名が,労働時間等の規制になじまないような立場にあったとか,その勤務態様について自由にその裁量を働かすことができたとは考えにくい。また,有給休暇の取得についても,特に他の従業員と異なる待遇を受けていたと認めるに足りる証拠はない。

 また,その従事していた業務についてみるに,前記1(5)に認定のとおり,原告Gは,ミューズ音楽院の教務部の従業員の採用の際の面接等の人選や講師の雇用の際の人選に関与し,教務部の従業員の人事考課及び講師の人事評価を行って被告Mに対し報告していたこと,原告Hは,事業部の従業員の採用の際に面接等を行い,その人選に関与し,また,経理支出についても関与していたこと等の事実を認めることができる。しかし,原告Gが,被告Mの指示や承諾を得ることなく,同原告の裁量で教務部にかかわる業務を行っていたとの被告M主張の事実やそのような大きな権限が原告Gに付与されていた事実を認めることはできないし,原告Hが,経理にかかわる権限を一手に掌握し,被告Mの指示や承諾を得ることなく,多額の出費を同原告の判断で行っていたとの被告ら主張の事実やそのような大きな権限が原告Hに付与されていた事実を認めることはできないのであり,原告G及び同Hが,経営者である被告Mと一体的な立場において,労働時間,休憩及び休日等に関する規制の枠を超えて活動することを要請されてもやむを得ないものといえるほどの重要な職務上の権限を被告Mから実質的に付与されていたものと認めることは困難である。結局,原告G及び同Hは,それぞれ事業部長及び教務部長として,その業務遂行に対する職務上の責任を被告Mから問われることはあっても,その職責に見合う裁量を有していたものと認めるに足りる的確な証拠があるものとはいえない。なお,部長である原告Gより下位の職位にある原告Fについて,原告G以上の権限があったという主張も証拠もない。

 さらに,前記のとおり,原告Gら3名は,原判決別紙一覧表(5)に記載のとおりの役職手当の支給を受けており,平成13年4月分以降の基本給が,同年3月分まで支給されていた割増賃金の額をも考慮した額に増額されているようにうかがわれるところであるが,上記の勤務態様にかんがみ,かかる基本給と役職手当の支給だけで厳格な労働時間等の規制をしなくてもその保護に欠けるところがないといえるほどの優遇措置が講じられていると認めることは困難であるし,原告Gら3名の地位が,本件体系変更による基本給が上記のような額に増額されたことにより,質的に一変したと認めることはできない。

 以上によれば,被告Gら3名が時間外手当支給の対象外とされる管理監督者に該当する旨の被告M及び被告学園の主張は,採用することができない。

>> 日本マクドナルド事件判決における管理監督者性の判断基準

神代学園ミューズ音楽院事件判決では,具体的に管理監督者に該当する場合の具体的な判断基準や要件について,日本マクドナルド事件等のように,明確に列挙しているというわけではありません。

しかし,まず,管理監督者制度の趣旨が「経営者と一体的な立場において,労働時間,休憩及び休日等に関する規制の枠を超えて活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与され,また,そのゆえに賃金等の待遇及びその勤務態様において,他の一般労働者に比べて優遇措置が講じられている限り,厳格な労働時間等の規制をしなくてもその保護に欠けるところがないという趣旨」であると明示した上で,「役職の名称だけでなく,同原告らが,実質的に以上のような法の趣旨が充足されるような立場にあると認められる」場合でなければ,管理監督者とはいえないという規範を示しています。

そして,その後の事実認定とともに,上記「法の趣旨が充足されるような立場にあると認められる場合」とはどのような場合なのかについて具体的に判断をしています。

その認定から読み取るとすれば,上記判決は,管理監督者性の判断基準として,以下のような基準を提示しているといえるでしょう。

>> 管理監督者性の判断基準

第1の基準

第一に,同判決は,「労働時間等の規制になじまないような立場にあったとか,その勤務態様について自由にその裁量を働かすことができたとは考えにくい。また,有給休暇の取得についても,特に他の従業員と異なる待遇を受けていたと認めるに足りる証拠はない。」と判示しています。

このことから,労働者の勤務形態が労働時間等の規制になじまない性質であること,勤務態様について自由裁量があること,他の(一般)従業員と比べて勤務態様において優遇措置がとられていたことが,管理監督者性の判断の基準または要素として考慮されることが分かります。

>> 神代学園ミューズ音楽院事件判決の事実認定

第2の基準

第二に,「経営者である被告Mと一体的な立場において,労働時間,休憩及び休日等に関する規制の枠を超えて活動することを要請されてもやむを得ないものといえるほどの重要な職務上の権限を被告Mから実質的に付与されていたものと認めることは困難である。」と判示しています。

このことから,経営者と一体的な立場から,労働時間,休憩及び休日等に関する規制の枠を超えて活動することを要請されてもやむを得ないものといえるほどの重要な職務上の権限を与えられていることが,管理監督者性の判断の基準または要素として考慮されることが分かります。

>> 神代学園ミューズ音楽院事件判決の事実認定

第3の基準

第三に,「勤務態様にかんがみ,かかる基本給と役職手当の支給だけで厳格な労働時間等の規制をしなくてもその保護に欠けるところがないといえるほどの優遇措置が講じられていると認めることは困難である」とも判示しています。

このことから,賃金の面において(一般の労働者に比べて)優遇措置がとられていることが,管理監督者性の判断の基準または要素として考慮されることが分かります。

>> 神代学園ミューズ音楽院事件判決の事実認定

神代学園ミューズ音楽院事件判決の判断基準まとめ

神代学園ミューズ音楽院事件判決についてまとめると,以下のとおりとなるでしょう。

すなわち,「経営者と一体的な立場において,労働時間,休憩及び休日等に関する規制の枠を超えて活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与され,また,そのゆえに賃金等の待遇及びその勤務態様において,他の一般労働者に比べて優遇措置が講じられている限り,厳格な労働時間等の規制をしなくてもその保護に欠けるところがないという趣旨」が実質的に「充足されるような立場にあると認められる」場合に,管理監督者であるといえるという判断基準を示しています。

そして,その判断基準または考慮要素として,以下の基準または要素を挙げています。

上記考慮要素は,管理監督者性の判断基準または要素として参考になるでしょう。

>> 神代学園ミューズ音楽院事件判決の事実認定と評価

神代学園ミューズ音楽院事件判決の事実認定と評価

神代学園ミューズ音楽院事件判決では,管理監督者性について,以下のとおり判示しています(一部抜粋。なお,労働者原告はA~Gとして表記され,音楽院代表者はMと表記されています。)。

勤務態様に関する事実認定と評価

第1に,神代学園ミューズ音楽院事件判決では,労働者の勤務態様に関し(前記判断の考慮要素の1~3)について,以下のとおり認定をしています。(なお,原告労働者たちはAからGと表記されています。)

原告Gら3名は,いずれもタイムカードにより出退勤が管理され,出勤時間は他の従業員と同様の午前8時30分に余裕を持った出勤をしていたほか,平成13年3月分までは時間外労働等の実績に応じた割増賃金の支払を受けていたのであり,これらの事実に照らせば,原告Gら3名が,労働時間等の規制になじまないような立場にあったとか,その勤務態様について自由にその裁量を働かすことができたとは考えにくい。また,有給休暇の取得についても,特に他の従業員と異なる待遇を受けていたと認めるに足りる証拠はない。

上記のとおり,判決では,労働者らの勤務態様について,労働時間の規制になじまないものではなかったこと,自由裁量とはいえないこと,他の従業員よりも優遇されていたとはいえないことを認定しています。

その根拠となる事実として,原告労働者らがタイムカードにより出退勤が管理されていたことが挙げられています。

タイムカードで出退勤管理されていたのですから,当然,労働時間の規制になじまない勤務態様ではなかったことが明白です。

また,タイムカードで出退勤管理されていた上に,他の従業員と同様に午前8時半ころに出勤していたという事実からすれば,勤務態様に自由裁量があったともいえないでしょう。

つまり,出退勤の自由が許されていたとはいえないということです。

現に,この事案では,一時は割増賃金が支払われていたこともあったとのことですので,そもそも労働時間管理がなされており,自由裁量はなかったことを使用者自身も認めている時期があったといえます。

なお,使用者側は,原告労働者が有給休暇の取得について他の従業員たちよりも優遇されていたから,管理監督者としてふさわしい待遇を与えていたといえるとの主張をしていたようですが,(そもそも有給休暇の取得を優遇していたことから管理監督者としてふさわしい待遇をしていたといえるのかは疑問ですが)それについては立証(管理監督者であることの立証責任は使用者側にあります。)できなかったようです。

>> 管理監督者の判断における労働時間規制の親和性とは?

重要な職務権限の付与に関する事実認定と評価

第2に,神代学園ミューズ音楽院事件判決では,経営者と一体的な立場といえるほどの重要な職務上の権限を与えらていたかどうか(前記考慮要素の4)について,以下のとおり認定しています(なお,被告の1人であるミューズ音楽院経営者はMと表記されています。)。

その従事していた業務についてみるに,前記1(5)に認定のとおり,原告Gは,ミューズ音楽院の教務部の従業員の採用の際の面接等の人選や講師の雇用の際の人選に関与し,教務部の従業員の人事考課及び講師の人事評価を行って被告Mに対し報告していたこと,原告Hは,事業部の従業員の採用の際に面接等を行い,その人選に関与し,また,経理支出についても関与していたこと等の事実を認めることができる。しかし,原告Gが,被告Mの指示や承諾を得ることなく,同原告の裁量で教務部にかかわる業務を行っていたとの被告M主張の事実やそのような大きな権限が原告Gに付与されていた事実を認めることはできないし,原告Hが,経理にかかわる権限を一手に掌握し,被告Mの指示や承諾を得ることなく,多額の出費を同原告の判断で行っていたとの被告ら主張の事実やそのような大きな権限が原告Hに付与されていた事実を認めることはできないのであり,原告G及び同Hが,経営者である被告Mと一体的な立場において,労働時間,休憩及び休日等に関する規制の枠を超えて活動することを要請されてもやむを得ないものといえるほどの重要な職務上の権限を被告Mから実質的に付与されていたものと認めることは困難である。結局,原告G及び同Hは,それぞれ事業部長及び教務部長として,その業務遂行に対する職務上の責任を被告Mから問われることはあっても,その職責に見合う裁量を有していたものと認めるに足りる的確な証拠があるものとはいえない。なお,部長である原告Gより下位の職位にある原告Fについて,原告G以上の権限があったという主張も証拠もない。

上記判示によると,裁判所は,原告Gについて,教務部従業員の採用面接等の人選や講師の雇用の人選に関与していたこと,人事考査・人事評価をしてMに報告する権限があったことを認定しています。

また,原告Hについても,事業部の従業員の採用面接等の人選に関与していたこと,経理支出に関与してことを認定しています。

しかし,それ以上の権限が原告Gや原告Hにあったことまでは認められないとし,その上で,経営者と一体的な立場で労働時間等の規制を超えて活動することを要請されてもやむを得ないといえるほどの重要な職務上の権限が付与されていたとはいえないと評価しました。

つまり,従業員の採用面接等の人選に関与していたり,人事考査や評価をしていたりした程度では,経営者と一体的といえるほどの重要な職務上の権限を与えられていたとはいえないということを明らかにしているのです。

では,どの程度の権限であればそれほどの重要な職務上の権限があるといえるのか,についてはこの判決では言及されていません。

しかし,上記判示をみると,各担当部署における権限を一手に掌握して,経営者の指示等がなく業務遂行できるほどの権限がなければ,経営者と一体的なほどの権限とはいえないと考えているように読めます。

また,職務上の権限の内容については,労務上の権限に限られず,労務管理等以外の権限であっても,それが経営者と一体的といえるほどのものであれば,管理監督者性を肯定する方向に働くと考えているようにも読めるでしょう。

>> 管理監督者性の判断における経営者との一体性とは?

賃金の優遇措置に関する事実認定と評価

第3に,神代学園ミューズ音楽院事件判決では,賃金面において優遇されていたかどうか(前記考慮要素の5)について,以下のとおり認定しています。

原告Gら3名は,原判決別紙一覧表(5)に記載のとおりの役職手当の支給を受けており,平成13年4月分以降の基本給が,同年3月分まで支給されていた割増賃金の額をも考慮した額に増額されているようにうかがわれるところであるが,上記の勤務態様にかんがみ,かかる基本給と役職手当の支給だけで厳格な労働時間等の規制をしなくてもその保護に欠けるところがないといえるほどの優遇措置が講じられていると認めることは困難であるし,原告Gら3名の地位が,本件体系変更による基本給が上記のような額に増額されたことにより,質的に一変したと認めることはできない。

上記判示によると,この事案では原告労働者たちに一時割増賃金が支払われていた時期があり,その割増賃金分も含めて賃金が昇給されていることを認めています。

しかし,それにもかかわらず,賃金面で他の従業員に比べて賃金面で優遇されていたとまではいえないという評価をしています。

その評価の理由は,端的にいえば,勤務態様からみると,それに見合ったほどの賃金が支払われていたとはいえないという点です。増額しているけれども,そもそも金額が十分でなかったということになります。

>> 管理監督者性の判断における労働条件の優遇とは?

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