割増賃金

未払い割増賃金の請求

医師の宅直・オンコール当番に残業代等は支払われるか?

勤務医・研修医など医師の宅直・オンコール当番勤務時間は,労働時間に該当しないとする裁判例があります(奈良病院事件判決)。ただし,医師の宅直・オンコール当番勤務時間であっても,具体的な事情において「使用者の指揮命令下に置かれている時間」であれば労働時間に該当し,残業代等の支払いの対象となることはあり得るでしょう。

ここでは,医師の宅直・オンコール当番勤務に残業代等は支払われるのかについて,東京 多摩 立川の弁護士がご説明いたします。

医師の宅直・オンコール当番勤務

医師であっても,使用者によって雇用されている勤務医や研修医の場合,時間外労働をすれば残業代を,休日労働をすれば休日割増賃金を,深夜労働をすれば深夜割増賃金の支払いを求めることができます。

この医師による未払い残業代等請求においては,宿直・日直・当直勤務時間をどのように扱うのかが問題となることがあります。

しかし,それ以上に問題となるのが,いわゆる「宅直」や「オンコール当番」などと呼ばれる勤務の場合です。

宅直とは,所定労働時間外に,事業場外の自宅またはその周辺等で待機し,使用者側からの呼び出しがあれば事業場等に赴いて当直と同様の勤務等を行うという勤務形態です。

当直(宿日直)勤務の場合,通常労働ではないものの,事業場内において勤務しています。

これに対し,宅直やオンコール当番では,基本的には事業場にはおらず,自宅等,使用者の直接の支配下でなく,プライベートな場所または自由のある場所で待機をしていることになります。

宅直・オンコール当番も,呼び出しに備えて待機を求められている以上,まったくの自由時間ではありませんが,とはいえ,ある程度の自由が認められる状況で待機しているのですから,宿直に比べても拘束力は弱いといえます。

そこで,宅直やオンコール当番勤務に対して残業代等が支払われるべきなのかが大きな問題となってくるのです。

>> 医師による未払い残業代等請求

医師の宅直・オンコール当番勤務時間の労働時間性

医師の宅直・オンコール当番勤務時間に対して残業代等が支払われるのかどうかは,その時間が「労働時間」といえるのかどうかにかかっています。労働時間に該当しないならば,賃金は発生しないからです。

この点,労働時間に該当するかどうかについて,最高裁判所は,「労働基準法(昭和六二年法律第九九号による改正前のもの)32条の労働時間(以下「労働基準法上の労働時間」という。)とは,労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい,右の労働時間に該当するか否かは,労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって,労働契約就業規則,労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないと解するのが相当である。」と判示しています(三菱重工業長崎造船所事件判決(最一小判平成12年3月9日)

つまり,労働契約や就業規則等の定めに関わらず,客観的に「使用者の指揮命令下に置かれている時間」が労働時間であるということです。

また,最高裁判所は,不活動仮眠時間の労働時間性が争われた事案において,「労働者が実作業に従事していないというだけでは,使用者の指揮命令下から離脱しているということはできず,当該時間に労働者が労働から離れることを保障されていて初めて,労働者が使用者の指揮命令下に置かれていないものと評価することができる。したがって,不活動仮眠時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には労基法上の労働時間に当たるというべきである。そして,当該時間において労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には,労働からの解放が保障されているとはいえず,労働者は使用者の指揮命令下に置かれているというのが相当である。」と判示しています(大星ビル事件判決・最一小判平成14年2月28日)。

したがって,使用者の指揮命令下に置かれている時間ではないと評価されるためには,労働からの解放が保障されていなければならず,労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には,労働からの解放が保障されているとはいえないということになります。

そうすると,医師の宅直・オンコール当番勤務時間であっても,その時間において「労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合」であれば,労働からの解放が保障されているとはいえず,使用者の指揮命令下に置かれていると評価できるので,労働時間に該当するということになるでしょう。

ただし,上記のように判断できるとしても,宅直・オンコール当番勤務の内容や運用は,それぞれの病院等によって異なっているでしょうから,一概に,宅直・オンコール当番勤務であるから労働時間に該当するまたは労働時間に該当しないとはいえません。

個々の状況に応じて個別具体的な判断が必要であるということです。

>> 労働時間性の判断基準とは?

奈良病院事件判決の判断

医師の宅直・オンコール当番勤務が労働時間に該当するのかについて争われた著名な裁判例として,奈良病院事件判決があります。

もちろん請求をしている医師はそれぞれ別人ですが,医師による奈良病院に対する割増賃金請求事件は数度にわたって行われています(大阪高判平成22年11月16日,大阪高判平成26年12月19日,奈良地方裁判所平成27年2月26日判決等)。

いずれの判決も,判断枠組みはほとんど,最初の高裁判決である大阪高判平成22年11月16日を踏襲しているといってよいでしょう。

結論から言えば,大阪高判平成22年11月16日は,宿直勤務時間については残業代等支払いを認めましたが,宅直当番勤務については労働時間性を否定し,残業代等の支払を認めませんでした。

その理由として,大阪高判平成22年11月16日は,以下のような理由を挙げています。

  • 宅直制度は,宿日直担当医以外の全ての産婦人科の医師全員が連日にわたって応援要請を受ける可能性があるという過大な負担を避けるため,医師が,そのプロフェッションの意識に基づいて,当該緊急の措置要請(応援要請)を拒否することなく受けることを前提として,その受ける医師を予め定めたものであり,同制度は医師らの自主的な取組みであること
  • 宅直を担当しない日においては,精神的な緊張や負担からは一応解放されると考えられることに照らすと,これを半年,1年単位でみれば,宅直制度の下における医師らの負担が,宅直制度がなく,宿日直担当医以外の全ての産婦人科の医師らが連日にわたって上記緊急の措置の要請を受ける可能性がある場合の負担に比べれば,過大であるとはいえないこと
  • したがって,病院長からの黙示の業務命令があったとはいえないこと
  • 宅直制度が宿日直制度と一体の制度であるとまでいうことはできないこと
  • 明示又は黙示の業務命令に基づき宅直勤務を命じていたものとは認められないのであるから,宅直当番日に自宅や直ちに病院に駆けつけることが出来る場所等で待機していても,労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価することができないこと

この判断枠組みは,基本的に,大阪高判平成26年12月19日,奈良地方裁判所平成27年2月26日判決でも同様です。

>> 医師の宿日直・宅直に関する奈良病院事件判決

労働時間性が認められ得る場合

前記奈良病院事件判決のとおり,医師の宅直・オンコール当番勤務時間は労働時間に該当しないと考えるのが一般的といえるかもしれません。

もっとも,労働時間に該当するかどうかは,使用者の指揮命令下にあるといえるかどうかによって判断されます。

医師の宅直・オンコール当番勤務時間であっても,使用者の指揮命令下にあるといえるのであれば,労働時間に該当するのです。

奈良病院事件判決から考えるならば,宅直・オンコール当番勤務が,医師らの自主的取り組みではなく,使用者からの業務命令に基づくものであることを主張・立証できれば,労働時間性を認められる場合もあり得るでしょう。

なお,宅直・オンコール当番勤務時間中に実作業をした場合には,その時間については労働時間と認められるのは当然です。

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