賃金の支払いについては全額払いが原則とされていますが,一定の場合には例外が認められています。ここでは,全額払いの例外が認められるのはどのような場合なのかについて考えます。
全額払いの原則とは?
賃金の支払いは,所定期日に所定賃金を全額支払わうのが原則とされています。これを全額払いの原則と呼んでいますが,一定の例外的な場合には全額を支払わなくてもよいと認められています。
給与からの税金・社会保険料等の控除
全額払いの原則からすると,極論でいえば,所定の賃金から何らかの金額を控除することは一切許されないようにも思えます。
しかし,給与明細を見てみてください。実際には,いろいろな金額が控除されているかと思います。例えば,所得税の源泉徴収,社会保険料の労働者負担分が引かれているのが一般的ではないでしょうか。
給与所得税の源泉徴収,社会保険料の労働者負担分については,賃金から控除することが税法・保険法などの法律上許されています。つまり,法律上,全額払いの例外とすることが認められているわけです。
なお,会社で財形貯蓄を設け,労働者がそれに承諾している場合も,勤労者財産形成促進法という法律によって,賃金から控除することが認められています。
税金・社会保険料・財形貯蓄以外の控除
上記のとおり,所得税・社会保険料・財形貯蓄は法律上控除が認められていますが,場合によっては,これら以外の金銭が控除されているような場合もあるでしょう。
しかし,上記のような法律上控除が認められている金銭以外のものを賃金から控除することは,全額払いの原則に違反するものとして,原則として許されません。
ただし,労使協約がある場合にはこの限りではありません。労使協約によって,一定の金銭を控除することが取り決められている場合には,賃金から控除することも許されるとされています。
例えば,よくあるものとしては,組合費,共済会費,社宅家賃などが挙げられます。これらも,労働協約によって取り決めがあれば,控除が許されることになります。もっとも,ここでいう労働協約は,当然,法律上の要件を満たしている協約でなければなりません。
賃金からの相殺
全額払いの原則において,もっとも問題になるものといえば,賃金からの相殺です。
例えば,労働者が仕事でミスをして,それにより会社が損害を被ったとして労働者に対し損害賠償を請求し,それと賃金との相殺を主張するという場合がよくあります。
確かに,労働者のミスによって会社が損害を被るということはあり得る話ですが,それと賃金とを相殺できるのかという問題は,法的にいえば別問題です。
この点については,原則として,損害賠償と賃金との一方的な相殺は許されず,ただし,労使間で賃金と損害賠償を相殺してもよいという合意(相殺合意)があれば,相殺が許されるとされています。最高裁判所の判例でも,同様の解釈がなされています。
もちろん,ここでいう相殺合意は,労働者の真意に基づく合意である必要があります。使用者が労働者に強制するような態様で合意をさせた場合には,真意の合意であるとは言えません。










